愚痴

今の仕事について早数十年、ついに儂にもリストラが押し寄せてきた。あと数日で解雇されるそうな。

一昔までは儂らは会社の花形だった。体は頑丈だし成績は優秀。日本全国に儂らは散らばり、日々仕事にいそしんでいた。たまに客に騙されるのもいたが、大半はまじめに仕事をこなしておった。そんな儂らがリストラに怯えるようになったのは、あの若い連中が現れ始めてからじゃろうな。

やはり仕方のないことなのかのう。儂らも年をとって頭の回転がずいぶんと鈍ってきたが、まだまだ現役で働けると思うのだが。会社は若いもんを積極的に採用し始めとる。たしかに若いのはスマートでおしゃれで新しい仕事もてきぱきこなせる。それにひきかえ儂らは不格好で皆同じ制服を着ているし、できる仕事は限られている。どうやら今の世では儂らみたいな頭の固い連中は歓迎されないらしい。儂らの世代でもはやりのITを覚えて生き残ろうとしているのがおるが、無駄なあがきのようじゃ。

しかし儂らの方が勝っている面も多いのだがのう。まず若いもんは働く場所を選ぶ。どいつもこいつも都会に集まりおって地方では働かない。山奥なんかじゃ全然いないところもある。一方儂らは働く場所を選ばん。たとえ人口二百人の小さな村であろうとも需要があれば儂らは駆けつける。それが儂らの仕事だからじゃ。

第二に、若い奴らは仕事中によくキレる。そのせいでどれほどのお客様が迷惑を被っていることか。会社には毎日のように苦情が殺到しとるわい。会社も若い奴らのキレやすさには手を焼いているようじゃ。儂らとて絶対にキレないかといえばそうは言い切れないが、若いのに比べれば数十分の一の確率じゃ。儂らの方が良いと思わんかね。

長々と愚痴ってしまったが、どうやらこれで終わりのようじゃ。会社の人間どもが儂を外しにきた。
「まだこんなところに残ってたんですね」
「ああ、うっかり見落としていた。この型の公衆電話はこいつで最後だ。こんな旧式、もう誰も使わんよ」
「これを外した後はどうするんですか」
「携帯の基地局を造るのさ。ここら辺は電波が悪い。お客様からしょっちゅう苦情が出てるんだ」

書庫へ
浜辺へ
Licensed under Creative Commons License