キャンバス

人は生まれるときに一枚のキャンバスを手渡される。
誰も見ることも触ることもできない、真っ白なキャンバスを。
幼いとき、人の心は澄みきっている。曇り一つない純真な心。
周りの人々の愛を一心に受け止めきらきらと輝いている。
キャンバスは色鮮やかに染められている。
学校に入ることで人は生きていく術を覚えていく。
かつての純粋さは次第に失われていき、少しずつ暗い光を帯び始める。
鮮やかなキャンバスの上に点々としみがつき始める。
青い春を過ごし、人は狡猾になる。
他人との駆け引きに疲れ、心は蝕まれていく。
キャンバスはだんだんとくすんでいく。
やがて人は社会の一員として洗礼を受ける。
幼い頃の心はすっかり影を潜め、心は欲望と打算に支配される。
キャンバスから光は消え、厚く積み重なった絵の具は変色していく。
時に人は恋に落ち、幸せな日々を過ごす。
この時ばかりはすさんだ心も癒される。
明るく染まるキャンバス、しかしどこか違和感がある。
そして訪れる別れの時。
心は引き裂かれ、奈落の底へと突き落とされる。
消え去ったはずの濁りが再びキャンバスを埋める。
年老いていき、人は次第に穏やかとなる。
蝕まれ、すさんだ心は徐々に澄んでいく。
キャンバスから穢れが消えていく。
死の淵に立ち、人は生まれたときの心を取り戻す。
そして自らの命と心を手放し、生まれゆく者に手渡す。
キャンバスはかつての如くこの上なく白い。