静寂

静寂が訪れる。今日も生き延びた。

最前線での戦いに参加して一月。俺はまだ死ぬことなく生きていた。もはや敵味方無く殺し合うだけとなったここでは、音を発するもの全てが命を脅かす存在。安息が訪れるのは夜だけ。こんな戦いに意味があるのか答えられる奴はいないだろう。しかし俺たちにとって、これは生きるための戦いだ。殺らなければ殺られる。それだけのことだ。

静寂が訪れる。俺はまだ生きている。

俺は傭兵だ。信念など持ち合わせていない。あるのは金への欲求だけ。そんな俺は生き延び、正義心に駆られた連中は死んでいく。後方からの支援はない。次第に俺たちは追いつめられていく。

再び静寂が訪れる。俺はまだ死なない。

俺の周りから人が消えていく。次々と、あっけなく。銃弾に倒れるもの、爆風に吹き飛ばされるもの、飢えで死ぬもの、病気で死ぬもの……。それでも俺は生きている。俺は金のためにここへ来た。死んでいった奴らはなぜここに来た?名誉のため?愛するものを守るため?俺には理解できない。

再び静寂が訪れる。まだ死神は俺の前に姿を見せない。

そもそもなぜこの戦争は起こった?国を守るため?国を豊かにするため?国民を守るため?違う、そんな崇高な目的じゃない。ただ単に支配者の欲を満たすため。俺と同じ、自分の欲を満たすため。いや俺は違う。人を巻き込んだりしない。本当にそうか、俺は金のために人を殺してきたじゃないか。欲を満たすためにこの手を血で染めてきたじゃないか。そんなことはない。俺は違う。本当にそうか。俺は…俺は…俺は…。

再び静寂が訪れる。終わることのない静寂、全てから解放された静寂が。

書庫へ
浜辺へ
Licensed under Creative Commons License