夏の日

それは、ある夏の暑い日のことだった。健史は父、大輔に親友の晃と一緒に川にバーベキューに連れていってもらった。

三人は河原に着くと早速持ってきたバーベキューの道具を広げ、準備に取りかかった。そしてバーベキューが終わると大輔は言った。
「健史、晃君、むこうでキャッチボールでもしないか。」
健史は驚くと同時に嬉しかった。普段はいくら頼んでも忙しいだの疲れてるだの言って自分の相手をしてくれない大輔が誘ってきたからだ。父さん、何かいいことでもあったのかな。健史はそう思いながらボールを持って走っていった。

そうして三十分ほどキャッチボールをしていた。ところが健史が投げたボールが大きくそれて川の方へ飛んでいってしまった。
「ごめーん」
「いいよ、いいよ。俺が取ってくるよ」
そう言って晃はボールを取りに行った。と、
「うわー」
健史が駆けつけると晃が足を滑らせて川に落ち、もがいていた。大輔は飲み物を買いにその場を離れていたし周りには誰もいない。そこで健史は自ら川に入って晃を助けようとしたが、深みに足を取られて健史も溺れてしまった。

そこへようやく大輔が戻ってきて二人が置かれている状況に気付いた。大輔はまず岸に近い晃を助け出した。健史はすぐに自分も助けられるだろうと思ったが、大輔はまるで金縛りにあったかのようにぴくりとも動こうとしない。
「父さん、助けて!助けて!」
それでも大輔はなぜか無言のままじっと健史を見下ろしていた。健史が流されそうになったとき、ふいに大輔は健史を助けあげてきつく抱きしめた。この時も大輔は無言だったが、目には熱いものがにじんでいた。

このことがきっかけで健史と晃は疎遠となり、大輔と妻、桂子は離婚した。後に健史が桂子から聞いたことだが、実は健史は養子だったのだ。しかも晃は大輔と元愛人の間の子なのだそうだ。その二人が出会い、友人となったことで大輔は思い悩んでいた。そこにあの日、健史が晃を連れてきたものだから大輔は混乱し、あんな事になってしまったのだという。それを聞いて健史はこう思うのだった。
父さんは僕を息子だと思ってくれたんだ、と。

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