成人式

「……つまり、君たちは今日からこの国を支える大人の仲間入りをしたわけであり、これからは社会の一員として立派に役目を果たしてくれるものと信じております」

格式張った市長の挨拶は延々二十分も続いている。まったくもう少しわかりやすくまとめられないもんかな。さっきから同じようなことを何度も何度も繰り返すばかり。いい加減飽きてきた。よく市長になれたな。そうか、本人の頭の中が空っぽでもブレーンがいるから平気なのか。

「市長挨拶でした。続きまして『愛国心あふれる教科書を作る会』代表、東尾三枝様よりご祝辞を賜りたいと存じます。」
「先ほどご紹介をいただいた東尾です。新成人のみなさん、今日は本当におめでとう。君たちのような前途有望な若者がこの国を正しい方向に引っ張っていかなければいけません。そもそも我が国の戦中、戦後史は占領国の都合のいいようにねじ曲げられたものであり、それを正さなければ……」

なんでこんなやつが来賓に呼ばれているんだ。歴史のでっち上げをしている張本人の科白だと思うと笑えないよ。こんな連中がいるから「大虐殺はなかった」なんていう政治家が後を絶たないんだよな。あれだけ証拠がそろっているのにどうやって言い逃れするつもりなんだろう。はやく被害を受けた国の人々への補償を行わないとますます国際社会から孤立してしまう。

「それではこれで成人式を終了いたします。なお、まだ国民年金に加入していない方が多数いらっしゃいます。今加入しないと年金受給額や時期などで不利益を被ることがあります。お早めに市役所で手続きをとるようにしてください」

年金ねぇ。どうせ払っても自分がもらえないんじゃ意味ないよな。得をするのはほんの一握りの人間だけ。老後に備えて預金しとくほうがどれだけマシか。まあ、この超低金利時代じゃ大してプラスにはなんないけど。

「武くん、成人式見終わった?」
「うん、見たよ。お母さん、僕、立派な大人になってお父さんとお母さんにうんと楽させてあげるね」
「武くんったら……。お母さん嬉しい」

退屈極まりない成人式中継、親が「見なさい」とうるさいから仕方なく見てたけどちっとも意味がない。親の顔色伺うのも疲れるなぁ。大人って僕から見てもおかしいとわかるようなことをしているのに気付かないんだろうか。明日学校でみんなと話してみるか。あ、算数の宿題やんなきゃ。

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