旅の果て

西暦2304年、とある物理学者によって発見された空間特異点は、宇宙開拓に新たな局面をもたらした。空間の歪みによって異なる2地点を連結する空間特異点、これが宇宙空間のあちらこちらに存在し、その中には異なる銀河を連結しているものさえあることが明らかとなった。この空間特異点により、それまで光速という物理的な壁に阻まれていた宇宙航行が根底から覆されることとなった。

それからおよそ1000年、無数の空間特異点が発見され、人類は宇宙への進出を続けた。時には他の知的生命体と和平条約を結び、時には武力によって制圧しながら空間特異点を渡り歩いていく旅。そうして支配領域を拡大していき、ついに最後の目標を残すのみとなった。

最後の目標、それは宇宙の果て。光速で膨張を続けている宇宙の果てがどうなっているのか、20世紀という遥か昔から延々と続けられてきた論争。それに終止符を打つべく、いくつもの調査隊が送り出された。

「艦長、まもなく目標、空間特異点KC1847Fに到達します」
「承認。他の艦からは未だ連絡はない。このままいけば我が艦が一番乗りになりそうだ」
「おめでとうございます、艦長」
「諸君らのおかげだ。航法士、特異点に進入せよ」
「了解、空間特異点に進入します」
(何度通過しても慣れないものだ。あらゆる観測機器を駆使しても何も反応のない空間。空間特異点とは一体……)
「通常空間復帰まであと1分。出現予想地点は座標ZZY99758。計算上の空間境界面からおよそ1,000,000kmの地点です」
「承認。通常空間復帰後速やかに観測を開始せよ」
「了解」
「復帰まであと5秒、4、3、2、1、復帰します!」
……
「な、なんだこれは?」
「前方、境界面上に巨大な空間特異点を複数確認!概算ですが、一辺10,000kmほどの正方形と推測されます!」
「特異点内に質量確認!これは……まるで人の顔のようです!」
「何を馬鹿なことを!」
「艦長!左側方から高エネルギー反応!回避できません!」
「神よ……何がどうなっているのだ……」

『どうした?』
『外縁部システム領域に侵入物確認。最外周モニタより視認、既に排除しました』
『そうか。最近やけに多いではないか』
『失礼します。昨今の侵入物の増加の原因が判明しました。前回のメンテナンスの際に仮想領域座標プログラムにバグが混入。座標間の連結が起こり、一部がシステム領域にまで及んでいたようです』
『なるほど。処置はどうなっている?』
『現在最優先事項としてバグフィックスを進行中です』
(座標連結か……仮想領域内ではワープとやらができていたのかもしれんな……)

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