事業仕分けと科学技術立国という幻想事業仕分けと科学技術立国という幻想

| | コメント(14) | トラックバック(7)

実験の合間に見ていた動画配信&twitter の TL より。

まずは自分の立場を示しておく。
基礎化学系の大学院博士課程 1 年。先日 DC2 不採用確定。
いわゆる研究者の卵。若手育成の範疇にある。

まずは仕分けの結論だが、13 日の WG3 で対象とされた案件はすべてが縮減あるいは廃止という結論となった。

全体を通して。
説明側の文科省の役人も仕分け人側も、どちらも「現場」を知らないままで話を進めていて、呆れたというのが正直なところ。
そんな場で日本の科学技術の将来に関する話し合いがされるのはね。

そしてどちらも致命的なまでに準備不足。毛利さんを除けば意見がかみ合わずまともな議論ができていなかった。
研究に携わる人たちがそういうアピールをしてこなかったというのはあるけれど、ここまで認識の差が大きいということに愕然とした。
これからは研究者サイドがもっと情報を発信していかなければいけないのだろう。

各論は突っ込みだすときりがない&自分が冷静でいられる自信がないのでマクロな視点から。

「納税者がトップレベル研究者にお金を払った分、納税者個人にもリターンをもらえないと納得できません!」

これは仕分け人の蓮舫議員の言。自分としては趣旨そのものを否定するつもりはない。リターンを金銭的なものに限らないという条件付だけど。

研究、特に基礎研究は、すぐに目に見える形でのリターンは期待できない。10 年後、20 年後に何かのベースとして実用化されていれば儲けもの。
人類の知にひっそりと 1 ページを付け加えるだけ、というものが多いのも事実。だけど、これでもリターンとしては十二分だと思う。
もともとアカデミックでの基礎研究というのはそういうもので、応用を考えている人のためのライブラリの構築こそが本質と言えるだろう。

しかし、短期的なリターンだけ、採算性だけを求められると、こういう土台となるべき基礎研究はほぼ確実に崩壊してしまう。
今回対象とされた理研のスパコンや SPring-8、バイオリソースなどは多くの研究者にとって欠かせないツールであるし、科研費、競争資金、若手育成、理系教育は、現役の研究者および次代の研究者の卵にとっては必要不可欠である。

特に若手育成、理系教育は、世代の連続性を確保する上では欠かせないと考える。
いわゆる「理科離れ」の問題は理系領域への人の流入を弱めてしまうし、仮に高校での中等教育を無償化したとしても、その上にあるべき大学、大学院での教育、研究がボロボロになっていては、誰も科学技術の道へ進もうとはしないだろう。
資源のない日本にとっては、科学技術と人材こそが発展の鍵ではないだろうか。
今回の仕分けがそのまま通ってしまえば、その柱が崩れてしまう。

博士課程に進んだのは自分の意思だし、いまさらそれを否定するつもりもないが、現状では後輩に同じ道を勧めることは到底出来そうにない。相談されたら否定的な態度をとるつもりだ。勧めるとしても日本ではなく海外。かく言う自分が博士修了後に海外へ行くことを考え始めているのだから。
日本という国は嫌いではないが、日本という国で研究を続けることはできなくなってしまうのか。それがなんともやりきれない。

今回の仕分けでは、会場からのリアルタイムでの動画配信や、twitter 上での議論など、これまであまり見られなかった形で情報がやり取りされていた。
また、仕分け後には、まとめサイトが立ち上げられている。
こういう形で、今までお世辞にも機能していたとはいえない研究者間のコミュニティが構築されようとしていることには期待したいと思う。もちろん自分もその一員となるつもりだ。

トラックバック(7)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 事業仕分けと科学技術立国という幻想

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.chaoticshore.org/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/285

スパコンの問題は、(少なくともボクにとっては、)民主党政権の真贋を判断する試金石となった。 経済「原理」主義で研究開発予算を切りすぎたメーカーが、数年後... 続きを読む

気になる噂をスッキリ!芸能会の噂話情報局 - 事業仕分け 国土交通省 (2009年11月14日 12:42)

地デジ普及は「予算半減」 事業仕分け、雇用関連は廃止相次ぐ ‎3 時間前... 続きを読む

Q行政刷新会議の事業仕分け人を公開しないのはなぜでしょうか。A大学教授・市長・市場アナリスト・弁護士等 関係者から脅し等を受けるとまずいので、全て公開する... 続きを読む

「スパコン予算が事業仕分けで削られた!!」 ニュースで聞いた話。そもそも論で事業仕分けって何だ? って事で調査。 ○事業仕分け作業と... 続きを読む

出した。 話が拡散しないようにあえて若手育成に絞ったけれど、それはそれで偏った文章になったしまった感じも。 こういう文章はやっぱり苦手だ。 基礎科学全般で... 続きを読む

 標記の件に関するリンク集を、私なりにまとめてみました。随時更新します。(最終更新:2009年11月23日22時=) ・ブログ「大隈典子の仙台通... 続きを読む

                                 産経ニュース(写真も): ノーベル賞受賞者が首相に直談判…事業仕分け http://w... 続きを読む

コメント(14)

次世代スーパーコンピューターが事業仕分けで見送られるようでは、夢も希望もない。
民主党の蓮舫のような科学技術に無知で、日本の将来に無関心な人物が仕分け人では、致し方ないこと。
毎年2.5兆円の税金を使う高速道路無料化は、無駄な予算であるから、事業仕分けによって廃止してもらいたい。

■仕分け、スパコン補助金「限りなく見送りに近い」―事業仕分け結局は、巨大ブーメランとなって、民主党の命脈を絶つか?
こんにちは。事業仕分けは、あまり意味がありません。企業経営でいえば、プロモーションばかりやって、マーケティングをしていない会社のようなものです。民主党の幹部は、そういう会社の幹部のようなものです。まさに、事業仕分けは、前政権の無駄(本当に無駄かどうかは別問題)を公表し、手っ取り早く民主党が国民のために活躍していることをアピールするための販促活動のようなものだと思います。長期にわたる国家ビジョンなしに、事業仕分けをしたとしても、根本的な問題の解決にはならず、かえって混乱するだけです。この事業仕分け、結局は何も解決にならず、ますます、国民に不満感、閉塞感をもたらし、結局は巨大ブーメランとなって、民主党の命脈を絶つことになるかもしれません。詳細は、是非私のブログをご覧になってください。

二言目には国民目線つーけど
これが華麗なる経歴をお持ちの「事業仕分け人」のメンバーだとうか正体w
<衆議院>
枝野、菊田真紀子、田嶋要、津川祥吾、寺田学、
<参議院>
尾立源幸、蓮舫
<研究者・エコノミスト>
 川本裕子(早大大学院教授)▽田近栄治(一橋大副学長)▽富田俊基(中大教授)▽石弘光(放送大学長)▽土居丈朗(慶大教授)
▽松井孝典(東大名誉教授)▽中村桂子(JT生命誌研究館長)▽翁百合(日本総研理事)▽高橋進(日本総研副理事長)▽原田泰(大和総研チーフエコノミスト)
<自治体>
 福嶋浩彦(前千葉県我孫子市長)▽海東英和(前滋賀県高島市長)▽山内敬(前高島市副市長)
▽木下敏之(前佐賀市長)▽熊谷哲(民主党京都府議)▽神奈川県小田原、三浦、横須賀、厚木市職員
<市場アナリスト>
 ロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレー証券)▽市川真一(クレディ・スイス証券)▽河野龍太郎(BNPパリバ証券)▽高田創(みずほ証券)
<会社員・経営者>
 丸山康幸(フェニックス・シーガイア・リゾート会長)
<その他>
 石渡進介(弁護士)▽飯田哲也(NPO法人所長)▽梶川融(監査法人総括代表社員)▽藤原和博(大阪府知事特別顧問)

こんな高級取りが法的拘束力の無い会議の太鼓持ちやってるんだぜ
こんな高給取りは漢方薬が保険から外れても痛くも痒くも無い罠
ある意味「すごい国民目線」だことw

http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi/d2/pdf/s1-3.pdf
これを見て人名から経歴を調べてみるといいですが、いわゆる新自由主義・小泉竹中路線の人一色です。後は愚直な学者さんが何人か入ってる程度。
シャレにならないのは第3WGに中田前横浜市長の懐刀の南学氏がいたりもする。この人中田に呼ばれて横浜市大を中田の言いなりにさせるために狼藉放題パワハラ放題やっちゃった人。

ちなみにメンバーのフェルドマン氏ってのは、小泉改革を推進した竹中平蔵元総務相と懇意とされ、小泉内閣時代には「隠れ経済政策立案者」と噂されたことも。文芸春秋(07年6月号)では、小泉氏が長時間、四谷の料理屋でフェルドマン氏と会合を持った様子が描かれている。

現状は、日本企業がリストラの方向性をはき違えて
大勢の技術者をリストラしていまい、その彼らを破格の待遇で拾ったサムスンがその結果、ノウハウを短期で
会得し半導体や液晶パネルで圧倒的なシャアを握ったことと似ている。
いまや1強のサムスン1社と多弱の日本の全家電メーカーの図式である
この図式を国家規模でやるつもりなんだろうか??
日本人の愚かさもここに極まったというしかない
貧すれば鈍するとはこのことだな

あの小沢氏が仕分け人に小沢チルドレンとかを入れていないところを見るとやはり財務省の役人の仕掛けた孔明の罠なんだろうなあw
いや財務省と小沢氏の両方かな?
この財務省の出した447事業のなかにはかなり役人の罠みたいなものも入ってるだろう。逆に仕分け対象に入らなかったものの内容こそどうなんだろうね?
さっそく地方交付税やスパコンやらスプリング8などの最先端
科学の分野でもめそうな雲行きだ
たしか「週刊文春」に小沢が仕分け人から新人議員を引き上げた辺りの事が報道されてますね。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20091112-00000001-bshunju-pol

これ以外にも「仙石に仕分け会議を好き放題やらせてるのはこれで仙石が自滅すると踏んでの「小沢の罠」なのではないか」と言う観測も出始めてるし、アレが民主党の意思かといえば、どちらかというと仙石と陵雲会の意志で好き放題やって歯止めがなくなってる感じが強くしますよ。

そう考えないと、あの人選の偏りや、亀井がねじ込んで後半から人が変わるとはいえ事実上の民主党の陵雲会政治家と御用学者・御用エコノミストだけでやってる仕分けの中身に族議員や大臣以外の党の幹部から文句が出ていないのは辻褄が合わない。

BNPパリバの人間がメンバーにいるのは何の冗談だい?
日本の法律を無視して平然としている企業の人間が国家予算にかかわるってアホ過ぎる。

>説明側の文科省の役人も仕分け人側も、どちらも「現場」を知らないままで話を進めていて、呆れたというのが正直なところ。
ここの部分、具体的にはどのような点でしょうか。今後のためにも教えていただければ。

>そしてどちらも致命的なまでに準備不足。毛利さんを除けば意見がかみ合わずまともな議論ができていなかった。
この点、事前に論点を各省に知らせていないのが一番の原因かと。予算を切るためにあえてそうしているのだと思いますが。

今回の事業仕分けでは色々考えさせられました。

事業仕分に関する多くのブログを見ると、非常に健全なご意見が多くて、この老人にも少し勇気が湧きます。

まさしく、現場を知らない人たちや国としてのビジョンを共有していない人たちが一体どうして事業の是非を論じられるのでしょうね。個人的な色眼鏡(勝手な価値観)と、とにかく削減達成の政治ショーしか考えていない人たちで正しい仕分けが出来るとは到底考えられません。失礼ながらこのメンバーでは、無理なようです。

一方、科学技術関係の予算の立て方にも問題がないとは言えません。基礎研究は別として的外れな目標で多額の予算を執行してきた例を挙げることは容易です。

困ったことに、多くの新聞の論調が(今までになかったことをやっている)こと自体を評価していて、中身を正しく批判的に書くことを封印しているようです。
多くの国民はこの政治ショーを楽しんでいるのか、民主党の人気も下がりません。

皆様、コメントありがとうございます。文科省宛のパブコメもアップしましたのでよろしければご覧ください。

> 中の人です 様
パブコメが一つの回答になるかと思いますが、仕分け側としては
・(特に基礎科学における)リターンの意味
・学振特別研究員や科研費若手といった若手育成を「ポスドクの生活保護」とみなしていること

説明側としては
・SPring-8 やスパコンの基礎科学・応用化学における存在意義
・研究者を取り巻く環境の実態(特に若手)

僕自身が当事者なのでどうしても偏ってしまっているとは思いますが、このようなところでしょうか。

Cai様

ご回答ありがとうございました。
文科省の説明者も挙げられた点はよく理解していると思うのですが・・・。
各所で指摘されている通り、説明が不十分だったのには忸怩たる思いです。
パブコメについては、省内の担当者はいただいた意見を見ていますし、主な意見は大臣にも上がるので、行政に直接声を届ける機会として、積極的に意見提出していただくと良いと思います。なお、財務省査定を考えると、意見出しはできるだけ早い方がいいです。

今回の仕分けの手法はあまりにも乱暴で、国家の予算を議論するにはふさわしくないと思いますが、査定プロセスの一部を公開したという1点については意味があったと考えています。文科省も科学者も、科学技術予算の原資は国民の税金であることを改めて認識して、専門家間の議論だけではなく、一般の方に対する説明もこれまで以上に積極的に行う必要があるのでしょう。また、これを機に、科学者側の科学技術政策に対する意見を集約する団体ができて、政府の審議会等に代表者を送り込めるようになれば良いなと思います。現に、一部では行動を起こされている方がいるようです。

一方で、政府も仕分けで部分最適化を行う前に、まずは国家としての成長戦略を作り、科学技術政策で担う部分を明確にした上で、その中で国家予算を活用すべき事業を具体化していく、というプロセスを取ることが必要と思います。民主党の成長戦略は未だに不明ですが。

書き捨てごめん。
私は国家一種試験に合格して国の研究機関で働いていた元国家公務員ですが、無駄遣い、多かったですよぉ。
同僚と他人の研究者の無駄遣いを批判していたのですが、国の予算の付け方にも問題があって、「物を買う予算を付けるけれど運用費はない」という状態があり、高価な道具を買ったけれど、運用費がないので買っただけで使ってないという高価な装置がごろごろ転がってました。買った高価な装置を使いこなせる能力のある技術者がいなくて、放置されていた装置もあったなぁ。
他にも現場にいて無駄遣いだなぁと思うことが多々ありました。

やらないよりは一度はやってみた方がいい事業仕分け
やらないと分らない事もあるし駄目な点があれば改善すればいい
事業の見直し検討において、まず「止められないか」のスタンスから入るのは基本中の基本
議論に時間をかけるほど成果が出にくくなるという事もまた真理
裏を返せば本当に必要なモノなら短時間の説明、検討議論でも十分にその必要性を理解させられるハズ
結論を出せずに「次回へ持ち越し再議論」などというのは避けなくてはいけない最悪のパターン
密室で物事を決めず会場での一般人の傍聴に加えたりインターネット上での中継されたりと公開の場で行われたという事は大きい
時間が足りないと言うが、だからアノテンポが生まれ関心が高くなったのでは?
一番の無駄は天下り先や嘱託の元役人の人件費でしょ!
役人の質も悪い上に、その人の数が多く彼らプレゼンやディベートがないが為に本当に必要なところがカットの対象になっている印象が。。。
コンサルタントがクライアント先の改革を進める時にも、いきなりの“本丸”攻撃は抵抗も強く改革が失敗に終わりがち。からめ手からから徐々に入り込み気がつけば“本丸”陥落、というのが理想
民主党もそんな考えでいてくれるものと願いたいところ
国会議員の人件費も無駄だよね 数も多い上に質も悪いし世襲をするのに政治団体を使えば無相続税ときているし

事業仕分を毎年やること自体は賛成です。
科学技術関係でも確かに無駄があると思います。ただし、国として将来必要なことは今が赤字でもやるべき!
しかし、何が本当に必要かを判断することは文官の人には難しいと思います。そういう意味では、研究者自体がどの程度研究の意義を正しく見極める事ができるかが今後問われると思います。

いろいろ

あわせて読みたいブログパーツ
フィードメーター - 徒然なる記録 - Chaotic Shore

プロフィール

ハンドル:Cai
有機化学を専攻する駆け出しアカデミック。
無秩序な浜辺に生息。
Mozilla 界にも出没。MozillaZine.jp 管理人。Mozilla 日本語ローカライズ。
詳細は不確実な報告書を。

Skype/twitter/はてな/mixi
Facebook, Google+ は実名

フィード